タイの建築防火

タイの建築防火

JICA北陸 元シニア海外ボランティア 木崎 英紀氏

 タイは日本に対しても友好的な国です。日本からは飛行機で片道6時間、時差は2時間です。人口は6千万人で、日本の半分ほどです。面積は日本の1.5倍ほどあります。宗教は国民のほとんどが仏教というのが特徴です。
シニア海外ボランティアにおける私の仕事は火災予防でした。私が行ったバンコクでは、高層ビルや近代的な建物が無秩序に乱立しており、建築規制が甘いことから火災の安全対策が遅れています。2005年から建築物定期検査報告制度が始まったことによって、ビルの立ち入り検査の経験を持つ我々が要請されたのです。私が配属されたのは、内務省公共事業局というところで、具体的な仕事として3つのことを依頼されました。
一つ目は、日本の火災予防制度の紹介です。全国各県の建築担当の職員を300人ほど集めて、防火対策についてのセミナーをしました。
二つ目は、検査員とビル所有者のための立ち入り検査チェックリストの作成です。これは結局私が全部一人で作ることになりました。その間に、法律の防火基準がそもそも脆弱で、違反建築も多いことがわかってきました。最低限必要と思われる項目をまとめて、マニュアルと自主的な火災予防計画を作成しました。
三つ目の仕事は、ビルの立ち入り検査の実施です。消火器のボックスにカギが掛けられていたり、消火器の圧力がゼロで使えない状態であることが散見されました。非常用照明灯も電池が切れて使えない状態でした。予想はしていましたが、タイの人たちの危機意識の無さが露呈された結果になりました。
2年間活動しましたが、建築規制の甘さ、違反建築の多さ、自主防火管理体制の未整備など問題が残っています。これらの事は提案書にして内務省の局長に提出してきました。
そうこうしているうち、2009年12月31日にナイトクラブで火災が起き、日本人1人を含む66人の方がお亡くなりになりました。これまで申し上げた通り、急激な都市開発の中で安全対策は脆弱です。賄賂の横行もあり、規制があっても隠蔽される体質です。このクラブは一般の建築申請で建てられており、税務署の調査結果でも接客されていたことには触れられていませんでした。
反省したのは語学力です。積極的に現地人を育成し、意識付けができていれば、もっといい仕事になったのではないかと思います。人に作ってもらったマニュアルよりも、自分たちが汗をかいて作ったマニュアルは愛着も湧きますから、より活用してくれるのではないかと思いました。