鉄道 運転士

鉄道 運転士

(株)ジェイアール西日本金沢メンテック 代表取締役社長
中川 博義 氏(金沢西RC会員)

 一般の方はなかなか経験できないであろう「運転士」をしていた時期がありますので、当時の話をさせていただきます。
 運転士になるには「運転適性検査」と「医学適性検査」にパスしなければなりません。「運転適性検査」は知能テストのようなものです。「医学適性検査」は、たとえば視力は屈折度まで検査します。この検査をパスすると半年近くの養成に入り、車両構造や運転関係の法令の勉強をしますが、一番厄介なのは操縦でした。操縦試験では定刻に停止位置にキチンと衝動なく止めることを採点されますが、途中で速度計を隠されて「いま何キロだ?」と聞かれ、その誤差で減点されるということもありました。
 初日に運転したときの不安、心細さは今でも忘れません。1日何事もなく職場に戻って来られるのを祈ったものでした。見習いの時、新米運転士の時には、みんな「夢」を見ます。踏切に自動車がいて、非常ブレーキをかけますが、全然効かない。そこで目が覚めるといった具合です。こんな話をすると、先輩は「お前もやっと運転士の入り口に入ってきたな。」と言われたものでした。
 運転で一番難しいのはブレーキ扱いです。電車はすべて電気式ですが、気動車(ディーゼルエンジンで動く客車)は当時ほとんど機械式ブレーキでした。運転士がブレーキハンドルを動かすと圧縮空気が抜けます。圧縮空気が抜ければ抜けるほど、車輪にブレーキを押し当てる力が強くなります。最大で10両編成を運転しましたが、ブレーキを掛けてから効いてくるまで4~5秒かかります。この時間が我慢できず、更にブレーキをかけますが、逆に効きすぎて手前で止まるのではないかと思い緩めます。まさに「下手くそ」な運転です。このように気動車の運転はとても難しいのですが、多くの先輩は気動車の運転のほうが面白かったと言いますし、私もそう思います。
 駅の時刻表は1分単位ですが、当時は15秒単位で運転していました。運転士や車掌は15秒単位の時刻表を持って運転していました。今は5秒単位で運転しています。ですから、ブレーキの取扱い一つで定刻運転が難しくなります。