金澤町屋の再生と活用

金澤町屋の再生と活用

有限会社金沢設計 代表取締役
赤坂 攻氏

 日本には古いものに対する偏見があります。日本の住宅の寿命は30年と言われており、日本は「新築市場」になっています。戦後の高度経済成長のもと、古いものはどんどん壊して新しくする。それが経済の発展とされてきました。しかし、少子化や経済の低迷により、住宅メーカーはこぞってリフォームを手掛けるようになりました。
 もう一つの偏見は、木は腐るもの、弱いものということです。しかし、良質の檜は1000年の寿命があると言われています。人間の寿命から考えると、木の寿命は永遠です。木の最大の欠点は腐るということですが、腐るということは見方を変えると地球環境に優しいという最大のメリットになります。
 古いものは直せないとも言われますが、大雪に見舞われて屋根も落ちた酷い状態の民家でも、移築して作り替えることができます。木はひと冬くらいでは腐りませんし、世界一の技術を持った日本の職人は古いものでも直せるのです。
 寒さの点については、7メートルもの天井高があっても空気の動きをシミュレーションすれば快適に生活することができます。そして、世界で最高性能の断熱材を駆使して、完璧に断熱することができます。
 以下、金澤町屋の再生・活用の事例をお話しします。
 横浜在住のオーナーが生まれ育った金沢の民家を賃貸住宅として再生した例があります。金沢にはこういう空き家が沢山あります。北陸新幹線が開通しますが、こういう民家が再生されているととても良い風景が作れます。金沢市では住宅の再生では400万円まで、店舗であれば500万円まで助成金が出ます。古いものを直すほうが実は格安なのです。町屋を生かすうえで、駐車場対策は最も大切な問題です。企業が近くにあれば、駐車場をシェアしたらどうかと提案しています。また、景観にも配慮し、どこにもメーターや屋外機が見えないようにしています。
 加賀東谷の重要伝統的建造物群保存地区に建っている建物の例ですが、一棟貸しの宿として再生しました。廃村になった山奥の民家ですが、麓の山代の旅館から業務提携の話があります。また、金沢のホテルが山奥の一棟貸しの旅館と業務提携することによって周遊コースを作ることもできます。限界集落が活性化するきっかけにもなります。
 最後に私が一番強調したいのは老人福祉施設です。経験している懐かしい空間で生活することが精神医学上良いということは医学的にも実証されています。これから老人福祉施設に民家を活用してほしいと思います。