金沢の月

金沢の月

金沢美術工芸大学 環境デザイン
教授 鍔 隆弘氏

 実家が料亭の「つば甚」でしたので、幼少時代より店から金沢の景色を見てきました。金沢は月見の場所として、非常に恵まれています。16世紀に入って前田利家が町づくりに入り、17世紀に町が出来ていきました。面白いことは、「月見」が町づくりの中に影響を与えていることです。
 犀川大橋の方向から鶴来を見た様子が、江戸時代の中期以降の屏風絵になっています。拡大してみると、料亭が描かれており、実家の「つば甚」も描かれています。 寺町台というのは改めて月見の場所だなと実感しています。大きな建物の割には、軒の出がかなり小さく、60cmくらいしかありません。大きな建物の場合、普通は軒を大きく出して恰好を付けるものですが、こ れは長い時間、月を眺めるため軒を小さくしているのです。
 建物の呼び方で、○○楼と言います。ものを眺めることを「楼」と言います。眺望がいいよ、ということを伝えるために使われています。○○亭というのは、兼六園にも多いですが、庭を眺めるのは「亭」と言います。 料亭はつば甚の他に、寺町台に多く存在しました。やはりこの付近は月を眺める場所なのだなと思います。
 金沢西ロータリークラブ会員の辻さんの庭園も「つば甚」の近くです。月見に最適の場所だと私は思っています。この付近からは、月が上がるときに山の左の端から出てきて、右上の方向にのぼっていきます。こ のような眺めにするのは、京都のお寺にルーツがみられます。日が沈んで暗くなると、奥行きのあった立体的な町がシルエットになって、絵画に描かれたような眺めになっていきます。
 辻家庭園の滝は、不思議なことに北向きに作ってあります。普通は、日の光が当たって、しぶきがきれいに見えるように南向きに作ることが多いので、不思議に思っていました。これは、月が南中した時にちょう ど滝の上に来て、滝の水を逆光で照らして白く風景をつくるのではないかと思っています。夜の庭園に入ることは滅多にないのですが、機会があれば是非とも拝見したいと思っています。
お殿様はどのような月を見ていたのかというと、本丸のあったところからは月明かりによって面白い演出がなされていたのではないか、という仮説を考えています。
 地図で確認すると、白山、野田山、寺町、金沢城が一直線に結べます。寺町台には桜を多く植えさせました。春には、白山や鶴来の山々が雪で白く見えます。そして、寺町台の山桜が白く咲くので、夜にお月様の光で 照らされると、白山から白くつながって美しかったのではないかと考えています。今後も金沢に残っている文化とともに研究を続けていきたいと思っています。