認知症とその治療

認知症とその治療

金沢医科大学名誉教授 加賀こころの病院院長 地引 逸亀氏

認知症とは、昔は痴呆症と呼ばれていたものです。認知症の一番の症状は健忘です。注意力は散漫になり、思考による判断力、計画をたて実行する能力など、人間が持っている特に知的な機能全般が総合的にやられることを認知症と言っています。
最初の症状は物忘れからはじまりますが、認知症までに発展する過程は様々で、ゆっくりと時間を掛けて認知症になるケースが多いです。古いことはよく覚えているのですが、ごく近くに起こった出来事が全然頭に入らない症状が多くみられます。しかし、ゴルフや車の運転など運動に関係する「手続記憶」はやられません。これは、関係している脳の部分が違うからです。
認知症には血管性認知症とアルツハイマー型認知症があります。血管性認知症とは、脳梗塞、いわゆる脳卒中、脳出血で起こるものです。高血圧、脳動脈瘤などが原因となります。認知症の症状の他に、運動マヒ、失語症が伴うことが特徴です。
日本では血管性認知症が多いのですが、欧米ではアルツハイマー型認知症が多いです。65歳を境にして、若く発症した場合には悪性の場合が多く、進行も速いのが特徴で、5~6年で廃人のようになってしまいます。65歳以降に発症する場合には、割とゆっくりと進行します。
CT、MRIができてからは、よく診断できるようになり、発症する前にある程度わかるようにもなりました。血管性の場合ですと、脂肪にコレステロールが付き血栓となり血液の流れを止めてしまうのですが、写真を撮ればわかります。この場合には薬で予防していくこともできます。
アルツハイマー型の場合には、異常なタンパクが頭の中でものすごく増えていきます。これはどうしようもできない。遺伝子の異常と言われており、もし家族に認知症の方がいれば要注意です。認知症は一度なったら、治りません。
認知症になると、譫妄(せんもう)と言われる幻覚症状、徘徊の問題が起こります。徘徊が起こると、見つけられない場合もあります。家ではなかなか面倒も見られず、精神病院へ行くこともありえます。
治療法ですが、全くありません。薬も全く効きません。世界中の学者が争って研究しています。発明すれば莫大な利益になりますので、これをめぐり殺人事件まで起こっています。タンパクを抑えるワクチン療法も出てきています。もし認知症になったら、短期入院でタイプを調べてもらって、在宅介護支援センターで介護認定を受け、適切な介護サービスを受けるのがよいでしょう。
予防していく上で一番重要なのは、意欲を失わず、活動的でいることです。家で寝ていてはだめです。できる限り仕事を続け、あるいは趣味を持つ。これが認知症に一番効く予防法です。