脳卒中について

脳卒中について

金沢医科大学病院 病院長 飯塚 秀明 氏

私は脳神経外科医ですが、昭和40年に定められた医療法の定義のとおり、脳、脊髄、末梢神経に関する外科医です。
日本では普通、脳外科brain? Surgeryといっていますが、英語では、neurosurgery といい、神経の外科というのが正しいわけです。そして、この神経に附属する血管、骨、筋肉等も治療の対象としています。
  脳卒中とは、血管障害により急激に意識を失い倒れた状態を言い、英語では、stroke つまり突然の一撃というわけです。脳卒中は、死亡原因の第3位で、死亡総数の2割を占めます。心筋梗塞の2倍の死亡率、3~7倍の発症率で、単一臓器の致死的疾患としては最多です。入院の原因疾患の第2位で、寝たきりの最大原因で4割を占めます。
  脳卒中になっても、今は昔のようにポックリ逝けなくなりましたので、高血圧、糖尿病、高脂血症のいわゆる生活習慣病の予防や治療が先決です。また、喫煙も良くありません。脳卒中(脳血管障害)には、血管が詰まる脳梗塞と、脳内やクモ膜下の血管が切れる脳出血があります。
  脳卒中による死亡内訳も時代によって変わってきました。約50年前は死亡者15万人のうち脳内出血が77 %、脳梗塞が13 %だったものが、2002年では、死亡者は13万人と減っているものの、脳内出血が24 %、脳梗塞が62 %と逆転しています。
  脳梗塞には、動脈硬化が進んで太い血管が詰まるアテローム血栓性脳梗塞、血の塊が心臓からとんできて詰まる心原性脳梗塞、細い血管が次々詰まるラクナ梗塞があります。脳梗塞の予兆としては、軽い意識障害、意識不明、急に起きるしびれ、片側の手足に力が入らない、口から物がこぼれる、急にろれつが回らなくなるなどの症状が出ますが、起こったら一刻も早く病院に行くこと、1時間以内に病院行き、3時間以内に血栓溶解治療を行えば助かる可能性があります。
  脳梗塞による多発小梗塞性認知症というものもあり、前頭葉を鍛えることが大切です。テレビゲームばかりしている子供の脳波は認知症患者と似たパターンになっています。なお、血圧の上限は130までで、年とともに上がってよいのだといわれていますが、それは間違いです。
  最後に、医療の崩壊といわれていますが、初期臨床研修制度が問題であり、大学病院離れ、地域格差・診療科間格差の増大が起こっています。研修医は都会に行きたがるし、外科志望者も医療費抑制、医師数抑制、医療訴訟で、2006年までの10年間で13 %余り減少、それも地方で顕著になっています。外科医は、労働時間が長い、医療事故・訴訟のリスクが高い、診療報酬に技術・経験が評価されないなどで敬遠されています。平均寿命が世界トップクラスで高度医療、感染対策等でコストが高騰しているにもかかわらず、勤務医は休めず、訴訟に怯えながら働いています。もっと安心して治療できる体制を作るべきです。