続 くすりと健康

続 くすりと健康

金沢大学 名誉教授  辻 彰 氏(金沢南RC会員)

 本日は、サプリメントは本当に効くのか、野菜は安心・安全で本当に身体に良いのかということについてお話したいと思います。21世紀はセルフメディケーションの時代と言われ、自分の健康は自分で守り治し予防するという考え方からサプリメントが流行し、厚労省も「健康日本21」計画の一つとして「野菜を1日350g 以上、うちβ-カロチンを豊富に含む緑黄色野菜を1日120g以上摂取する」ことを目標に掲げました。
コラーゲンやヒアルロン酸は、健康維持に必須の成分で年齢とともに減少するので、サプリとして摂る必要があるというのですが、消化管の消化吸収機能を先ず理解しておくことが必要です。近年アレルギー疾患が増加しており、国民の1/3が罹患しているといわれますが、食品アレルギーの大部分はその原因がアレルゲンタンパク質なので、その不本意な摂取を回避する必要があります。コラーゲン等のタンパク質は分子量が大きいので吸収分解され易い形に低分子化されていることが必要ですし、タンパク分解酵素や消化酵素が働いてアミノ酸も1つずつにならないと細胞になっていきませんし、3つ以上のものはアレルゲンとなります。
ところでビタミンの多くは生体内で合成できないため、食物から摂取する必要がありますが、たとえばビタミンCは柑橘類や緑黄野菜に多く含まれコラーゲン等を合成するので、緑黄野菜を多く摂れといいます。しかし、野菜であれば本当に身体に良いのかというと、そうではないのです。野菜は土壌中の窒素を根から主に硝酸塩の形で吸収して成長します。しかし、取り込む量が過剰であったり日照不足等により光合成が不十分ですと、「苦み」と「えぐみ」の原因となる硝酸塩が野菜中に蓄積されます。
硝酸塩はヒトの口腔内や腸内の細菌により亜硝酸に還元され、肉や魚に含まれるアミン類と結合して発ガン性を有するニトロソアミンを生成するばかりでなく、可吸収された亜硝酸は血液中のヘモグロビンと反応して酸素を運べないメトヘモグロビンを生成します。乳幼児に裏ごししたホウレン草を与えたため、酸欠で多数死亡したいわゆる「ブルーベビー」事件がその例です。この事件が引き金となり海外、特にヨーロッパでは野菜の安全性のバロメーターの一つとして硝酸塩濃度の上限を2,500ppmとする法律が施行されていますが、日本ではまだ規制がなく、硝酸塩濃度が10,000ppmを超えたものがまだ市場で売られています。
そこで無化学肥料・無農薬栽培が必要になってくるのですが、宮城県石巻市で農業を営む松本明氏は、動物の排泄物や藁・草などの天然材料を栽培地土着の常在菌の働きを利用しながら十分な時間をかけて発酵させた「完熟堆肥」を完成させました。この堆肥を野菜が吸い取る量しか与えず、ミント、バジル、ウコンなどの植込みやそれらの抽出液・液肥を利用した害虫自然回避法を駆使して、農薬を使用しない松本農法を確立させています。その結果、連作障害が発生せず、今まで無理とされていた高効率の栽培が達成され、硝酸塩濃度が0 ~ 100ppmという「安全・安心・美味しい」野菜が生産されています。
福島県鮫川村では、この松本農法を取り入れた結果、発酵堆肥に使える落葉の高額買取制度により村の高齢者が病院から姿を消し、村人の健康増進・医療費の削減が達成されていますし、金大薬学部の「薬用植物園」でも生薬栽培に松本農法を導入しています。