統計からみる本当の日本の治安

統計からみる本当の日本の治安

野田政仁法律事務所 弁護士 本光 章浩 氏(金沢西RC会員)

 昨今、いろんな犯罪がメディア等で報道されています。今現在はまあまあ治安は良い方だと思っていますが、感覚的に昔より今の方が犯罪が多くなり、日本がだんだん住みににくくなってきていると感じている方が多くなっているのではないでしょうか。
 実際、国民のアンケートによると、8割以上の方がいわゆる「体感治安」は年々悪化している傾向になっています。今年に入っても凶悪な犯罪が報道等を通じて連日紹介されています。最近でも少年の凶悪犯罪が起こっていますし、また、ネット犯罪やオレオレ詐欺などもよく取り上げられています。ではなぜ治安が悪化しているかについて、アンケート結果によると治安が悪化する上位回答として、地域の連帯意識が希薄になったこと、景気の悪化、情報が氾濫していて、犯罪の手口へのアクセスがし易くなった、青少年に対する教育が不十分であるがため子供が凶悪化し犯罪を犯す、国民の道徳観の低下などがあります。
 本題ですが、自分の身内が犯罪、凶悪事件にあって治安の悪化を感じたと言うよりも、報道、マスコミなどによって凶悪事件を知り、なんとなく治安が悪くなっている感じがすると言った方が多いのではないかと思います。ただしマスコミ報道などはどうしても事件を大きくとらえる傾向があります。
 統計的客観的に治安を表すものは「指数治安」とよばれます。それでは、体感治安と比べ指数治安はどうかをみていましょう。刑法犯の認知件数や検挙件数のピークは平成15~16年ごろになっていて、それ以降は年々減少傾向にあります。しかし、これは軽犯罪から交通事故、殺人犯罪など総括的な数値なので、これだけ見て治安が良くなっているかどうか、と言うことですが、凶悪犯罪に限定してみてみると、強盗は平成18年ごろにピークを迎え、その後は減少傾向、その他凶悪犯罪は若干ですが減少傾向です。
 人口は戦後から増えて現在は1億2千万人程度で推移しておりますので人口は増えても犯罪件数は減少していることが分かります。殺人の件数も減っています。他国に関しては、殺人に限ってみると発生率は、日本は0.8です。フランスは2.3、ドイツは2.6、アメリカは4.7です。検挙率も日本は95%前後で他国と比較しても安全だと言えます。
 少年事件に関してみても平成15年以降は減っています。しかしそうした中、犯罪が増加、そして凶悪化しているカテゴリーの方がいます。それは高齢者です。西RCも高齢の方がおりますので話をして良いものか悩みましが、統計上の事実ということでお聞きください。平成6年と平成25年の比較で、他の年代の推移は変わらないけれど、65歳以上は増えています。高齢者人口も増えている事もあると思います。犯罪の内容は万引きが多いです。また、繰り返し万引きをし、常習化しているようです。こういった方の弁護をしたことはありますが、身寄りがない人の場合は、着替えを取りに行ったり、未返却のDVDを返しにいったりとかいろいろ頼まれたりします。
 ただ高齢者の犯罪は万引きだけ増えているわけではなく、殺人、強盗、傷害等も増えています。かつて高齢者はあまり凶悪な犯罪を犯すことがなかったように思いますが、統計的には増加となっています。これまで見ていただいた通り、日本の治安は統計的には悪くなっていません。むしろ改善傾向です。私が担当する刑事事件も減ってきています。よく少年法改正などもっと厳罰化した方が良いとの意見がありますが、全体的にみて判断していただくことが大切なことだと思います。一方、高齢者は統計的にみて明らかに増加していますので、これから高齢化社会を迎え難しい問題となってきています。