物作りは心づくり

物作りは心づくり

漆芸 日展作家  高名 光夫 氏

 輪島にて39年間漆器を「なりわい」として、日展という舞台で30年間創作活動をやってまいりました。
 漆と日本人の関わりについて少し話します。輪島崎の輪島前神社の奇祭があります。漁師さん達は正月に裃で家族にもすれ違う人にも無言で神社にお参りいたします。祭りと漆との関係において、漆の黒は縄文時代より神に近い、「崇める」存在であったと思います。九千年前の地層から漆が付着した織物が出土し、五千年前の縄文時代の櫛が出土しました。古代から漆は使われ、人との結びつきが大変強いのです。
 また、日本人と食文化について ポルトガルの宣教師が書いています。日本は漆の食器で食べており、食器を手に持ち口もつけています。中国大陸では石器・陶器です、韓国は金属で下に置いて箸、スプーンを口にもっていって食べます。器の違いであり、それが文化の違いになりました。
 日本人の文化の継承は大切です。田の神様 あえのこと(神事)が奥能登の祭りとして今も続いています。農耕民族の弥生人はタイ・ベトナムの南方から入ってきて、先に北から来た縄文人を山の方に追いやったのです。その縄文時代から漆はありましたが、必要のないものは絶えます。漆器は必要だから残っているのです。また、定時制高校で15年指導していますが、研究発表を通じその成長は著しく、続けていきたいものです。
 日本人は原始、縄文時代より物作りに「魂を込めて」行ってきました。工業大国日本の原動力であり、それを伝えてきました。創作活動の目的は「魂を込める」ことであり、芸術家も物作りに「魂を込める」ことをたいへん大切にしています。
 漆の塗り箸を作りますが、赤と黒は好まれます。男性は黒、女性は赤を選ばれます。赤は太陽の色、血液の色、命の色、生命の色です。日本人は赤の色に執着している民族です。黒は宇宙、漆黒の闇の中に点在している星、神秘的なものを求めています。
 文化とは人の心ではないでしょうか?それが折れると文化は衰退します。朱鷺と輪島塗は同じです。保護される事は良くありません。保護されると弱くなります。野生のエネルギーをぐっと持ちこらえていかなけねばなりません。今後も野生の心を持って物作りをおこなって行きたいと思っています。
 なお、高名先生から漆絵の「あげ潮」というおめでたい色紙を西ロータリーメンバー全員にいただき、たいへん感激いたしました。