日本人初ドレイパー賞を受賞して」~携帯電話研究の先駆者~

日本人初ドレイパー賞を受賞して」~携帯電話研究の先駆者~

金沢工業大学名誉教授・野々市寿大学院 「俳句コース」講師
奥村 善久氏

 平成25年2月19 日、全米工学アカデミーより「チャールズ・スターク・ドレイパー賞」を日本人として初めて受賞しました。この賞は工学分野のノーベル賞と言われており、過去には、GPSや集積回路を発明した人などが受賞しています。私の受賞理由は、世界初のセルラー電話のネットワーク、システム、規格標準への先駆的貢献があったということです。
 日本ではドレイパー賞について誰も知りませんでした。私も知らなかった。大学も学会も政府も知らない。それゆえ、ワシントンDCで新聞発表が行われても新聞記者が誰一人来ないんです。その後、金沢工大がお膳立てしてくれて新聞発表を行いました。朝日新聞に「記者有論」という欄があり、日本では工学的な業績は評価されないが、日本人の業績は日本国内でキチンと評価すべきだと書かれています。しかし、日本国内での反響は全くありませんでした。

日本人初ドレイパー賞を受賞して」~携帯電話研究の先駆者~ 天災は忘れた頃にやってくるという有名な言葉がありますが、天恵も忘れた頃にやってくるのかなぁという思いです。ドレイパー賞の受賞は、私個人の業績というよりも、日本の移動通信技術が世界で認められたという価値のほうが大きいのではないかと思っています。
 通信技術者の夢である「究極の電話」というのがあります。1960年にベル研究所の副所長は「人間が生まれると、腕時計大の電話機とその人特有の番号が与えられる。彼はそれで世界のどことも自由に話ができる。もしも、話をして応答がなければその人はもうこの世にいないと知るだろう。」と書いています。私は、その2、3年後にこれを読んでなるほどこれだと思いました。われわれ通信技術者の究極の夢だと思いました。これはすでに現在は実現されています。腕時計大の電話機というのは市販されてはいませんが、NTTでは20年ほど前から出来ています。
 私は、移動通信の電波伝播について研究してきましたが、周波毎に様々なデータを記録し、図面上のカーブを割り出しました。これと前のカーブを使えば、計算機がなくてもグラフを付き合わせることで計算ができます。これは「奥村カーブ」と呼ばれ、世界が新しい移動通信の設計をする頃に、これを利用することによって合理的な設計ができたと評価されています。