新幹線と金沢の街づくり

新幹線と金沢の街づくり

金沢工業大学教授 建築家(一級建築士) 水野 一郎 氏

 今度の北陸新幹線は、長野、飯山、上越、糸魚川、黒部、富山、高岡、金沢の地において開通が待たれており、金沢からは約2時間半から3時間で東京に着くようになります。
新幹線整備については、東海道新幹線の時には万博などがあり、国家戦略でした。その後、上越新幹線の整備の頃から地方のための新幹線に変化してきました。
国土高速ネットワークによって、ストロー現象が起こっています。現在、新潟、長野は危険な状態で、人口は減り、土地の価格は下がっています。一方、逆ストロー現象もあり、九州では福岡に活力が出てきています。
新幹線開通によって県庁所在地は伸びますが、No. 2、No. 3都市は大変危険な状態になることが、過去の経験からわかってきています。各地には大手企業の支店がありますが、県庁所在地にだけあればいいのではないかということになって、その他の支店は出張所に格下げになる可能性もあります。
また、中枢性の高い県庁所在地は勝つが、低い県庁所在地は負けます。東北新幹線の場合には、仙台の一人勝ちで、山形、秋田、福島、盛岡は相対的には地盤沈下になりました。山陽新幹線は、広島の一人勝ち、岡山、山口は相対的に下がっています。九州新幹線は福岡にすべてが集中し、一人勝ちになりました。
新幹線効果の中に、観光があります。石川県の年間入込客数は31万人で、石川県に来た人が使う平均単価は、一人当たり4.2万円です。観光によって年間130億円の収入になりますが、石川県の総生産額の0.3%に過ぎません。重要なのは、地場の企業が、新幹線により人が来た時に事業を10%、20%伸ばすことを考えていくことです。
いま、富山は森市長の指揮のもと、壮大な駅北を含む開発を行っています。駅周辺には、ビジネスパークがもうけられ、土地の価格は金沢の2分の1です。一方で高岡は、新駅が分離駅となり、田んぼの真ん中になるのですが、ホテルなども建設されず全く投資されていません。
かつて金沢は、長期的、先進的に都市開発を行い、50m道路をつくり、県庁を移転し、都心を軸上に広げてきました。それによって町屋などの旧市街地の伝統性を守りつつ、発展していくことができました。金沢は、歴史都市であり、創造都市、学都、環境都市でもあります。
現在の金沢の一番大きな課題は片町周辺の衰退です。香林坊から南町の空室率は全国的にも上位で、25~30%です。東京で空室率が高まったと言われるレベルは5%です。
失敗の原因は金融の単機能の街にしたことです。「都心」は都に心と書き、楽しいところ、何かあるところ、ドキドキするところでした。多機能化によって、都心をよくしていくことが重要です。
金沢駅舎にはガラスドームがあります。当初は批判もありましたが、最近は評価され、ほっとしています。金沢という都市は、いつも時代の最先端を持っています。保存をする一方、常に自分たちの時代を創っていく。その積み重ねが伝統になると私は思っています。