帰国の報告―所見と感想

帰国の報告―所見と感想

米山奨学生 金沢大学博士課程2年 張 泓明 君(小松東RC ホスト)

 私は金沢大学で文化人類学を専攻しています。今年7月30日から10月4日まで中国に帰国しました。私は中国山西省の出身で、文化人類学のフィードバック調査のため、山西省の太原(たいげん)に2ヶ月ほど滞在しました。私は、大学生のときから日本語の勉強を始め、大学の卒業論文は「日本の文化の特性および日中関係の影響」をテーマとして書きました。文化人類学を勉強したかったので、勤めていた出版社を辞めて金沢大学に留学しました。博士課程の前期から「移民」研究に携わり始め、「移民」研究の一環として、移民が惹かれる要素を知る必要がありました。そういった目的で今回の夏休みの調査へ行きました。
 太原に着いた翌日から予備調査を始めましたが、その後3週間ほど里帰りをして、再び太原に戻った8月中旬頃には、テレビやインターネットの情報で日中間の政治情勢が急激に悪化していることを知りました。インターネットでは反日デモのニュースが伝わり始めました。反日デモでは日本製の車を壊したり、店舗を壊したり、不買運動を呼びかけるという場面もありました。このような非常識な行動がとられ、私は中国人として恥ずかしいという思いと申し訳ないという気持ちを感じていました。家族は私を心配してくれて、日本には行かない方がいいと言いましたが、両親を説得して戻ってきました。
 私の研究対象は「移民」です。国際移民とくに中国と日本の間の移民の仲介活動の研究に携わっています。移民たちの社会への適応性から社会文化の違いを発見することに興味を持っています。日本と中国でどうして文化の違いが生まれたのか、その大きな原因の一つは近代化に向かって違う歴史を歩んだことだと考えています。日本は明治改革と戦後の民主改革により近代化しましたが、中国は社会主義革命から改革開放に転向して現在の姿になりました。近代化への道筋の違いによって、近代文化の違いが生じ、お互い協力するときに理解不足や嫌悪感が生じて、今回の事件はそういった溜まった問題が放出したものだと思います。
 中国での個人主義の氾濫、共産主義の理想の喪失などに対して、愛国主義の教育とナショナリズムの重要性が高まってきました。愛国教育に共通の「敵作り」によって、反日教育が登場しました。中国はいまだに情報封鎖をしており、正しい日本のイメージはなかなか得られません。
 しかし、私は日本の友好の未来を信じています。日本と中国の交流は長い歴史伝統を持っています。民間人のなかに、日中友好の願いをもって奉仕をしている人が大勢います。そういう人達がいるからこそ、今の反日風潮にもかかわらず日本語教育や日本との交流を続けることができると思います。一人一人のつながりがあれば、日本と中国の友好の未来は確保できると私は信じています。