イギリス雑感

イギリス雑感

辻興産(株)・辻商事(株)取締役会長 辻 卓氏

 英国に長く滞在すると、旅行者が見るのとは別の面が見えてきます。国民の生活ぶりを見ていると、ある余裕を感じます。財政的にもせっぱ詰まった感じがしません。バスでも地下鉄でも先を争って乗るようなことは通勤ラッシュでもない。車も都心は混むが、譲り合いは極めて優雅にやっている。「心に余裕があるな」という気がします。
 勤務時間で英国は日本とドイツの中間というが、それ以上の余裕を感じます。東京では通勤に1時間以上かかるのは普通だが、ロンドンでは地下鉄で30分ほどで、6時前には家に着きます。
 遊びもバラエティーに富んでおり、クレー射撃などは、20個所ほどのポイントがある森の中を一日かけて回り、クラブハウスでお茶や食事をしながらワイワイやっています。ロンドン郊外の田園地帯では熱気球に乗りました。風に乗っているときは非常に静かで、下を眺めるとおとぎの世界のような景色が広がっています。大きな屋敷を上空から見ると、敷地の一角にヘリポートがありました。日本ではちょっと考えられない光景です。熱気球が降りた小さな飛行場には小さな飛行機が30~40機あり、近所の家族がブンブン飛んだりお茶を飲んだりしているのです。
 テレビを見ていて気づいたことがありました。中国に関するニュースはかなりあるが、日本に関するニュースはまったくない。娘によると、20年ほど前はけっこうあったそうだが、日本に活力がなくなったせいでしょう、非常に寂しく感じました。
 日本のメディアは中国の高速鉄道事故を批判しているが、英国人と話すと、日本にいだいているイメージは日本人が中国に持っているのと似ている。特に、福島原発の事故に対する政府やメディアの隠蔽体質から、信用できないと何人もから言われました。英国の大学教授と話していて、ノーベル賞を受賞したコロンビア大学のスティグリッツ教授が6月に出した論文で、福島原発事故と金融危機は共通したギャンブル性があると指摘していると聞いた。ともに絶対安全とされ、そのことによって天文学的な被害が出たからである。
 英国はいまだに通貨にユーロを採用せずポンドで通しているが、EU の現状を見ると先見性があり、したたかな国だと思いました。